2018年02月11日
コラム
【介護事業:介護事故⑥】介護事故(誤嚥事故)が発生した場合、社会福祉法人などの介護事業者はどのような責任を負うのか?(福岡の弁護士による無料相談受付中です)
こんにちは!福岡の弁護士の壇一也です(^^)
今回は、病院に入院中であった方がおにぎりを誤嚥して窒息し、死亡されたという事案について、裁判所がどのような判断をしたのかを簡単にご説明します(福岡地裁平成19年6月26日判決)。
事案の概要
病院に入院中であった高齢のVさんがおにぎりを誤嚥して、窒息し、意識が回復しないまま9か月後に亡くなられました。
そのため、その遺族Xさんが病院に対し合計4050万円を請求しました。
遺族のXさんは、㋐本件事故当時、Vさんの嚥下状態が悪かったにもかかわらず、咀しゃく・嚥下しにくいおにぎりを提供した過失がある、㋑歯科医師から食事摂取時には必ず義歯を装着するように指示されていたにもかかわらず、義歯を装着させなかった過失がある、㋒誤嚥しないように、また誤嚥した場合には直ちに吐き出させるために見守りをすべきであったにもかかわらず、これらを怠った過失があるなどと主張しました。
裁判所の判断
裁判所はどのような結論を出したか?
裁判所は、病院側の責任を一部認め、病院側にXさんに対し損害賠償として2880万円を支払うように命じました。
裁判所はどのような理由でこのような結論を出したか?
①Xさんの主張㋐について
これまでVさんがおにぎりを摂食した際にむせたことはなく、Vさんが歯肉を利用するなどしておにぎりを咀しゃくすれば嚥下可能であり注意して嚥下する限り誤嚥することはないと考えられること、Vさん自身がおにぎりの摂食を希望していたことなどから、おにぎりを提供したこと自体は直ちに過失ということはできない。
②Xさんの主張㋑について
Vさんは、義歯の装着を勧められても、これを拒否しており、看護師が嫌がる患者本人に強制的に義歯を装着することは実際上不可能であることから、Vさんに義歯を装着しなかったとしても過失ということはできない。
③Xさんの主張㋒について
Vさんは嚥下状態が悪かったこと、義歯を装着していなかったことなどからすれば、おにぎりを誤嚥することは予見できたはずである。そうすると、Vさんが接触する際、一口ごとに食物を咀しゃくして飲み込んだか否かを確認するなどして、Vさんが誤嚥することがないように注意深く見守るとともに、誤嚥した場合には即時に対応すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、約30分間も病室を離れた点に過失が認められる。
コメント
本件は、介護施設ではなく、病院に入院中の患者さんについての事例です。
裁判所は、入院中の患者さんが食事に際して、誤嚥する可能性が予測される場合には、病院側にはそれを防止するための一定の義務が認められるとしました。もちろん、誤嚥防止のための措置は、患者さんの状態や摂取する食物などによって様々であり一概に決まるものではありません。
本件では、食べさせる物が適切であったか、食べさせ方が適切であったか、患者さん一人で食べさせることが適切であったかなどについて具体的に検討して病院側に過失を認めています。
本件も、日常の介護にあたって参考になると思われますのでご紹介させていただきます。