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2018年02月18日

コラム

【介護事業:介護事故⑦】介護事故(誤嚥事故)が発生した場合、社会福祉法人などの介護事業者はどのような責任を負うのか?(福岡の弁護士による無料相談受付中です)

こんにちは!福岡の弁護士の壇一也です(^^)

今回は、介護施設の利用者がご飯などを誤嚥して、翌日死亡されたという事案について、裁判所がどのような判断をしたのかを簡単にご説明します(横浜地裁平成22年8月26日判決)。

事案の概要

医療法人が営む介護老人保健施設に入所中であった高齢のVさんが食事中にご飯、厚揚げ、ふきの煮物などを誤嚥して、翌日に亡くなられました。

具体的には、Vさんが介護施設の食堂で他の利用者20名と夕食をとっていたところ、食事の配膳をしていた介護福祉士がVさんの隣で夕食をとっていた入所者から声を掛けられ見てみると、Vさんは意識を消失した状態で、食事を誤嚥していました。

そのため、その遺族Xさんらが医療法人に対し合計3190万円を請求しました。

遺族のXさんらは、㋐介護施設における管理体制に問題があった、㋑本件事故発生前におけるVさんに対する対応に問題があった、㋒本件事故発生後のVさんに対する救命活動に問題があったなどと主張しました。

裁判所の判断

裁判所はどのような結論を出したか?

裁判所は、医療法人側の責任を否定し、Xさんらの請求を認めませんでした。

裁判所はどのような理由でこのような結論を出したか?

①Xさんらの主張㋐について

Xさんらは、具体的には、適切な人員を配置していなかったなどと主張しました。

しかし、裁判所は、「介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」(平成11年3月31日厚生省令第40号)に照らし、人員配置については法令上の基準を満たしていたと判断しました。

②Xさんの主張㋑について

Xさんらは、具体的には、Vさんは本件事故前から高熱、極度の便秘等で健康状態が悪化しており、嘔吐を繰り返すなどしていたことから、病院で治療を受けさせるべきであったし、また、Vさんが食事をする際、注意深く観察すべきであったなどと主張しました。

しかし、裁判所は、Vさんは本件事故前の体調は良好ではなかったが、直ちに医療機関で治療を要するほど重篤な程度に達していたとまではいえないから、病院で医師の診察を受けさせなかったことに過失はないと判断しました。

また、裁判所は、Vさんの死因は脳梗塞や心筋梗塞などによる発作を起こし、それによる吐き戻しの誤嚥が生じた蓋然性が高いと判断したうえで、Vさんが脳梗塞などで突然意識を消失することを予見することはできなかったし、施設の職員の観察も不十分とまでは言えなかったと判断しました。

③Xさんの主張㋒について

Xさんらは、具体的には、最初に本件事故を発見した介護福祉士がエアウェイの挿入、吸引等をすべき義務があったなどと主張しました。

しかし、裁判所は、エアウェイの挿入、吸引は、いずれも介護福祉士が行うことが法令上禁止されている医療行為に該当する可能性が高いことや、この介護施設の「救命救急マニュアル」では、吸引や気道確保は医師または看護師のみが行い得る行為をされており、介護福祉士はこれらの器具の取り扱いに習熟していなかったことなどを理由として、Xさんらが主張する義務違反はなかったと判断しました。

コメント

本件は、医療法人が運営する介護施設において発生した誤嚥事故についての事例です。

裁判所は、これまでご説明してきた事例とは異なり、介護施設側には過失はなく、損害賠償責任は負わないと判断しました。

その理由としては、介護施設の人員配置や日頃の社員教育、また緊急時のマニュアル作成などにおいて、介護施設側が十分な措置を行っていたことが大きいといえます。

本件も、日常の介護にあたって参考になると思われますのでご紹介させていただきます。


 

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