2018年02月25日
コラム
【介護事業:介護事故⑧】介護事故(徘徊・失踪事故)が発生した場合、社会福祉法人などの介護事業者はどのような責任を負うのか?(福岡の弁護士による無料相談受付中です)
こんにちは!福岡の弁護士の壇一也です(^^)
今回は、介護施設の利用者が介護施設を脱出し、遺体で発見されたという事案について、裁判所がどのような判断をしたのかを簡単にご説明します(静岡地裁浜松支部平成13年9月25日判決)。
事案の概要
社会福祉法人が営むデイサービスセンターを利用中であった高齢のVさん介護施設から脱出し、その1か月後、海岸防波堤付近の砂浜に遺体となって打ち上げられているところを発見されました。なお、Vさんは、失語症を伴う老人性認知症でした。
そのため、その遺族Xさんが社会福祉法人に対し損害賠償として合計約4460万円を請求しました。
Vさんは、施設の廊下面から高さ84センチメートルの1階廊下の網戸付サッシ窓から脱出したことから、遺族のXさんは、㋐施設からVさんが脱出したことについて施設側に過失が認められる、㋑施設の建物および設備に瑕疵が認められる、㋒施設側の㋐や㋑の過失のためにVさんが死亡したなどと主張しました。
裁判所の判断
裁判所はどのような結論を出したか?
裁判所は、社会福祉法人側の責任を一部認め、Xさんに合計約285万円を支払うように命じました。
裁判所はどのような理由でこのような結論を出したか?
①Xさんの主張㋐について
裁判所は、次のように判断しました。
Vさんが失語症を伴う老人性認知症と診断されていることから、単独で施設外に出れば、自力で施設又は自宅に戻ることは困難で、人の助けを得ることも困難である。
Vさんは失踪直前に靴を取って来ようとしたり、廊下でウロウロしているところを目撃されていたことから、施設としては、Vさんが施設を出ていくことを予見できたといえ、Vさんの行動を注視して施設から脱出しないようにする義務があった。
Vさんのような身体的には健康な認知症老人が84センチメートル程度の高さの施錠していない窓から脱出することは予見できたはずである。
そうすると、Vさんの脱出を防止できなかった施設側には過失が認められる。
②Xさんの主張㋑について
裁判所は、上記㋐で施設側の過失が認められるため、主張㋑については判断を示しませんでした。
③Xさんの主張㋒について
裁判所は、Vさんが施設から脱出してから数日後までは街中で目撃されていたが、それ以降の行動は明らかではないとしたうえで、Vさんは事理弁識能力までは喪失していたわけではないことなどから、失踪から直ちにVさんが死亡することまでは予見できなかったとして、施設側の過失とVさんの死亡との因果関係を否定しました。
そのうえで、Vさん自身の逸失利益や死亡慰謝料は、施設側の過失との因果関係が認められないとしました。そして、Vさんが行方不明になることにより、遺族が被った精神的苦痛のみが因果関係の認められる損害と判断し、施設側に慰謝料として合計285万円を支払うように命じました。
コメント
本件は、社会福祉法人が運営するデイサービスセンターにおいて発生した徘徊・失踪による事故についての事例です。
裁判所は、利用者の精神的状況や身体的状況、脱出直前の様子などから、施設側は、利用者が施設を脱出することは予見できたと判断しました。
一方で、脱出することで利用者が死に至ることまでは予見できたとは言えないとして、死亡との因果関係は否定しました。
介護施設では、介護を必要とする利用者を対象とする以上、健常者では考えられないような様々な事故の形態が考えられます。その意味では、利用者の特徴を十分に把握して、何らかの事故が予見できる場合にはそれを未然に防止するために、日ごろから社員教育や施設の管理体制に十分に気を付けておく必要があります。
本件も、日常の介護にあたって参考になると思われますのでご紹介させていただきます。