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2018年03月18日

コラム

【介護事業:介護事故⑩】介護事故(入浴に関する事故)が発生した場合、社会福祉法人などの介護事業者はどのような責任を負うのか?(福岡の弁護士による無料相談受付中です)

こんにちは!福岡の弁護士の壇一也です(^^)

今回は、介護施設の入所者が施設内の浴槽で死亡した事案について、裁判所がどのような判断をしたのかを簡単にご説明します(東京地方裁判所平成18年11月17日判決)。

事案の概要

社会福祉法人が営む知的障害者更生施設に入所中であったVさん(当時51歳)が施設の浴槽内で顔面を湯の中に水没させているところを発見され、その後、死亡が確認されました。なお、Vさんは、東京都から第二種精神薄弱者、精神薄弱の程度4度と認定されていましたが、自力での衣服の着脱や歩行、ドアや窓の開閉などは可能でした。

そのため、Vさんの遺族Xが社会福祉法人に対し損害賠償として合計約4500万円を請求しました。

Xは、次のように主張しました。

㋐Vさんの死因について、咽喉頭浮腫による窒息死、熱傷ショックによる死亡、熱中症による死亡、溺死のいずれかである。

㋑本件施設が知的障害者更生施設であることからすれば、施設側は、Vがひとりで本件浴槽に入り事故に遭うことを防止するため、本件浴室に施錠等を行って入室できないようにすること、本件浴槽に高温のお湯を入れたまま放置しないこと、被告の職員以外の者が高温のお湯を出すことができないようにすること、本件浴室への入室を感知できるような設備を設置するなど、本件浴室における事故を防止する義務を負っていたというべきであり、施設側はこの義務に違反した。

㋒施設側のこのような本件浴室の管理義務違反とVが死亡したことによる慰謝料や弁護士費用との間には相当因果関係が認められるなどと主張しました。

裁判所の判断

裁判所はどのような結論を出したか?

裁判所は、社会福祉法人側の責任を認めず、Xの請求を退けました。

裁判所はどのような理由でこのような結論を出したか?

①Xの主張㋐について

裁判所は、具体的な事実を検討したうえで、Xが主張するVの死因はいずれも認められないと判断しました

②Xの主張㋑㋒について

そのうえで、裁判所は、Vの死因は不明である以上、施設側の本件浴室の管理とVの死亡との間に因果関係を認めることはできないと判断しました。

コメント

本件は、社会福祉法人が運営する知的障害者更生施設の浴槽において発生した死亡事故についての事例です。

裁判所は、Vの死因が不明である以上、施設側の浴室管理との因果関係を問うことはできないと判断しました。

介護施設の浴槽内で死亡事故が生じているにもかかわらず、死因が不明であることのみをもって施設側に責任ないと判断することに疑問を持たれる方もおられるかもしれません。

しかし、施設側の責任を問うためには死因を明らかにすることは基本的に必要不可欠といえます。というのは、たとえばVが自死をするなどした場合にまで施設側に責任を問うてよいのかという問題はあるからです。

Vは、自力で身の回りの作業を行うことができたことも施設側の責任を否定する方向に動いたと思われます。

本件のように施設内で事故が発生したからといって必ずしも施設側に責任を負うというわけではありません。

しかし、死亡事故などが生じると、結果的には施設側には責任はないと判断されたとしても、それまでに裁判に発展し、多大な労力や弁護士費用の負担などを強いられることとなります。特に、健常者とは異なり、介護を必要とする利用者については、事故が生じる可能性は一般的に高いと言えます。その意味では、事故を防ぐための施設の管理体制を日常的に整えておくことは重要と言えます。

本件も、日常の介護にあたって参考になると思われますのでご紹介させていただきます。


 

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