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2018年03月25日

コラム

【介護事業:介護事故⑪】介護事故(浣腸による死亡事故)が発生した場合、社会福祉法人などの介護事業者はどのような責任を負うのか?(福岡の弁護士による無料相談受付中です)

こんにちは!福岡の弁護士の壇一也です(^^)

今回は、介護施設の利用者が看護師から浣腸を受けた後に死亡した事案について、裁判所がどのような判断をしたのかを簡単にご説明します(大阪地方裁判所平成24年3月27日判決)。

事案の概要

医療法人が営む介護老人保健施設に入所中であったVさん(当時80歳)が3日間排便がなく便秘状態が続いたため、看護師がトイレ内で立位状態のまま浣腸を実施しました。それからVはおやつを摂取した直後に嘔吐し、腹痛を訴え、下痢便を排出するなどし、体温が38度を超える状態が続きました。その後、Vは治療の甲斐なく敗血症により死亡しました。

そのため、Vさんの遺族Xが医療法人に対し損害賠償として合計約2500万円を請求しました。

Xは、㋐看護師による浣腸器具を挿入する角度や力の入れ方に問題があった、㋑浣腸を立位ではなく、左側臥位で実施すべきであった、㋒この㋐や㋑の注意義務違反とVの死亡との間には相当因果関係が認められる、㋓この㋒による死亡慰謝料は2500万円を下らないなどと主張しました。

裁判所の判断

裁判所はどのような結論を出したか?

裁判所は、医療法人側の責任を一部認め、Xに合計約800万円を支払うように命じました。

裁判所はどのような理由でこのような結論を出したか?

①Xの主張㋐について

まず、裁判所は、本件施設が要支援又は要介護者を対象とし、常駐する看護師が座薬の挿肛や浣腸の実施その他の一定の医療行為を行っていたことを踏まえ、看護師がこのような医療行為を実施する際には、一般の医療機関における看護師に求められるのと同程度の水準の注意義務が課される指摘しました。

そのうえで具体的な事実関係を検討して、㋐の浣腸の手技を不適切とする証拠はないとして、この点に関するXの主張は認められませんでした。

②Xの主張㋑について

一方で、本件浣腸器具の添付文書には、直腸粘膜を損傷するおそれがあり、立位での実施は危険で控えるべき旨が記載されていたことなどを踏まえ、㋑に関するXの主張は認めました。

③Xの主張㋒について

そして、㋒についても具体的な事実関係を検討して、浣腸器具によってVの直腸壁が損傷され、これをきっかけとして敗血症が発症したと推認できるとし、死亡との相当因果関係も認めました。

④Xの主張㋓について

そのうえで、敗血症が発生する原因となった直腸壁の損傷の拡大ないし穿孔には、Vの既往症や当時の身体状況等の諸般の条件も少なからず寄与していると考えられることなどを考慮して、死亡慰謝料としては800万円の限度で認めました。

コメント

本件は、医療法人が運営する施設において発生した看護師が浣腸を実施した後の死亡事故についての事例です。

裁判所は、介護老人保健施設の性格や同施設で行われている医療行為の実態などを踏まえ、介護施設においても、一般の医療機関における看護師に求められるのと同程度の水準の注意義務が課されると判断しました。

介護施設ではあっても、その性格から看護師などに求められる医療行為については、一般の医療機関と同程度のレベルが求められると判断した点は注目しなければなりません。

本件も、日常の介護にあたって参考になると思われますのでご紹介させていただきます。


 

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